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特集

無線LAN環境整備について

信濃町ITC:金森 勇壮/理工学ITC:大塚 智宏


慶應義塾大学の各キャンパスでは keiomobile2という公式の無線LANサービスが提供されている。利用者は、有効な慶應IDかITCアカウントを持ってさえいれば、簡単に設定し活用することができる。このサービスの仕様はどのキャンパスでも共通だが、無線LAN基地局の整備計画やその考え方は、各キャンパスの事情により様々である。

今回は信濃町キャンパスと矢上キャンパスにスポットを当てて、それぞれの環境整備の裏側を紹介する。

信濃町キャンパス

信濃町キャンパスは大学病院に併設され、医療に関連する研究・教育が活発に行われている。キャンパス内には教室(研究室)やセンターといった研究組織があり、教員はそれらの組織に所属し、教員・研究者・医師という複数の立場で活動している。多くの研究組織には信濃町ITCから個別のLANインフラが提供され、組織毎の自治でネットワーク環境を作り活用している。例えば、教室内に各自で購入・設定した無線ルータを設置して活用する教室も多い。また、学生は、2年生以上の医学部生をはじめ、看護医療学部3年生、薬学部短期病院実習生、医療系の大学院生らが通っており、授業・実習・研修・研究活動などを行っている。その中でkeiomobile2は他キャンパスと同様、公共エリアでの無線LAN接続環境として、多くの教職員・学生に活用されている。

信濃町キャンパスの無線LAN環境整備はどのように進んできたのだろうか。

信濃町キャンパスにおける教育・研究用の無線LAN環境整備は、旧無線LAN環境KEIOMOBILEが提供されていた2008年度より始まった。まず初年度は図書館内、自習室、ラウンジなどの教育研究系のオープンスペースから整備され、2009~2010年度にかけて、さらに会議室などの整備が進んでいった。2011年度の半ばより、現在の無線LAN接続方式keiomobile2のサービスが開始された。この頃より、医学部では会議資料の電子配布が検討され、定例会議などが開かれる2号館11階大会議室や第二校舎の講堂では、部屋の定員(100~150人)全員がkeiomobile2に接続できるよう、高密度な無線LAN基地局整備が行われた。信濃町の無線LAN整備の初期段階は以上のように、会議や自習での利用を念頭にキャンパス内の無線LAN環境が整備されていった。

信濃町ITCでは2013年度より、中川種昭所長の主導で無線LANアクセスエリア拡充を事業計画の柱の1つとして掲げ、集中的にリソースを投入している。まず手始めに、教育環境の無線LAN環境整備を進めた。その背景には、2013年度の医学部2年生から、学年全員にiPadを持たせ、授業・自習において積極的に活用するスタイルになったことがある。この方針に伴い、2013年度は授業教室の無線環境整備が中心となった。医学部生が授業で使用する教室やセミナー室、部室などに随時設置を進めていった。また、毎年4月に開かれる医学部2年生ガイダンスでは、iPadの配布と無線LAN接続の説明・設定サポートを実施するようになった。こうして、2013~2015年度の集中的な整備により、学生用の無線LAN環境は充実し、無線LAN基地局設置数は当初の3倍以上となった。

無線LANアクセスエリア拡充の事業計画は元々3年の予定であったが、研究エリア利用者の強い要望やキャンパス全体としてのサービス向上のため、引き続き事業計画として継続されることとなった。ここから研究棟の無線LANエリア拡大に力を入れていくことになる。まず2015年度末に、信濃町キャンパスの全研究棟・教室棟について、無線LAN電波に対する電波環境調査を行った。その結果に基づき、各建屋のフロアにどのように無線LAN基地局を配置すべきか検討を行った。2016年度には3号館北棟・臨床研究棟の全館、2017年度には総合医科学研究棟の全館が整備された。また、2017年度竣工のJKiC(JSR-慶應イノベーションセンター)棟では開設当初から無線LANを提供している。これにより、キャンパス内研究棟はほぼ全棟整備が達成されたこととなる。加えて、2015年度後半には国際的な無線LANローミング基盤であるeduroamも提供されるようになっている。

ここまで、研究棟・教室棟の無線LAN基地局整備について経緯を挙げてきた。では、病院棟はどのようになっているのだろうか。信濃町キャンパスは他の5キャンパスと異なり、2つの情報管理部門が存在する。それは我々信濃町ITCと病院情報システム部である。信濃町ITCは他地区と同様、教育・研究・事務に活用するネットワーク環境を整備・運用する部門である。具体的には研究室LANや事務用ネットワーク、パソコン室、そして学内共用無線LAN(keiomobile2)の提供などを行っている。対して、病院情報システム部は病院運営の要でもある電子カルテシステムの運営とその端末や接続インフラの整備などを行っている。そして、両者のネットワークは絶対に混線しないよう、物理的に独立して整備・管理されている。

病院の電子カルテシステムでは移動端末を利用することも多いため、無線LANも積極的に活用されている。電波の干渉によるトラブルなど、病院運営への悪影響を防ぐため、古い病院棟では何らかの理由で設置を要望されない限りはkeiomobile2を整備していない。しかしながら、医学部生の臨床実習、研修医の利用、病院内でも長時間過ごす教員(医師)の利便性など、病院内にいる場合にも外部接続手段としてkeiomobile2が必要だという意見が増えてきた。

そこで、2015年度竣工の1号館1期棟、2018年度竣工の1号館2期棟では、keiomobile2を全館で利用できるようにしている。しかし、これは信濃町ITCが無線基地局を大量に設置したわけではない。電子カルテの無線LANシステムにkeiomobile2のネットワークを "論理的には分離した上で" つなぎ込み、電子カルテ用の無線LAN基地局からkeiomobile2を出力している(当然ながら、不測の事態の際にはすぐに切り離せるような物理接続形態にもしてある)。このように運用することで、無駄な無線基地局を設置して悪影響を与えることなく、建物内全域に対して電子カルテ・keiomobile2の両方をサポートできるようになっている。このように、ここ近年では、病院情報システム部と信濃町ITCは緊密に連携をとりながら情報交換・環境整備を進めている。

信濃町キャンパスの無線LAN環境を整備し始めてから10年が経過した。キャンパス全体を見ると、多くのエリアでkeiomobile2を活用できるようになったが、まだカバーされていないエリアや接続しにくいエリアも存在している。また、当初設置した無線LAN基地局は劣化のため交換の時期を迎えている。これらについて着実に対処を行っていく。さらに、各教室(研究室)に独自に設置された無線LAN基地局により電波が過密となり、お互いに悪影響を与えているエリアもあるため、その整理も必要だと考えている。

信濃町キャンパスのIT利用者の重要な足回りのため、信濃町ITCは引き続き一つ一つ改善を続けていく。

矢上キャンパス

理工学部の3・4年生と大学院生が学生生活を送る矢上キャンパスは、敷地内に整然と並んだ建物に数多くの研究室や教室・実験室が配置されており,最新の理工学教育・研究を担う多様な設備を擁している。矢上キャンパスでは学科や研究室といった単位での活動が多いことが特徴となっているが、ネットワーク利用においても組織ごとにITCから個別のセグメントが割り当てられ、それぞれのネットワークは各組織の自治により運用されている場合がほとんどである。また、ITCが提供する無線LAN接続サービスkeiomobile2とは別に、独自の無線LAN基地局を設置している組織が多く、いずれの点でもネットワーク利用の状況は信濃町キャンパスと似通っていると言えるだろう。

矢上キャンパスの無線LAN利用の歴史は古く、手近な記録にある限りでは1998年よりも前から実験的な利用環境が構築され、2000年にはIEEE 802.11b規格の基地局による試験的なサービスが開始された(らしい)。IEEE 802.11aと並び無線LANが一般に認知されるきっかけとなったIEEE 802.11b規格だが、その標準化が完了したのが1999年だから、当時の取り組みがいかに先駆的なものだったかご理解いただけるのではないだろうか。

当時のサービスは、研究室内などの個別ネットワークが利用できる場所への提供は想定しておらず、あくまで教室や会議室といった不特定多数の人が集まる(かつ有線LANの利用が難しい)場所でインターネット接続サービスを提供するという、現在の公衆無線LANサービスに近い形態のものだった。サービス開始当初は無線LAN機能を標準搭載しているPCはまだ一般的ではなく(PCカード等による拡張機能として利用することが多かった)、あくまで有線LANが利用できない場所での補助的なネットワーク接続手段という位置付けだったのである。

その後、基地局の増設とともに利用可能なエリアを拡大し、2002年には他キャンパスと共通の仕組みによるアカウント認証に対応したサービス(KEIOMOBILE)の提供を開始した。この頃には利用可能エリアはキャンパス全域にまで拡大していたが、約150台もある基地局に対しそれらを束ねる役割の「無線LANコントローラ」が不在であり、運用管理が煩雑になりつつあった。また、機器がコンシューマ向けメーカの製品(ビジネス向けモデルではあったが)だったこともあって故障しやすく、天井裏に設置されている基地局の交換作業が頻繁に発生する状況がしばらく続いた。

2011年にようやく全機器のリプレースを果たすことができ、無線LANコントローラの導入と、故障率の低いエンタープライズ向けメーカの製品への置換えによってこれらの問題は解消された。この頃までに基地局数は300を超えるまでに増加しており、無線LAN規格としてはIEEE 802.11nへの全面対応を完了している。また、同年に大学共通の接続サービスkeiomobile2の提供が開始されたことで、現在の利用環境の大部分はこの頃までにほぼでき上がった。さらに、2015年には国際的な無線LANローミング基盤eduroamのサービス提供も開始した。

一方で、サービス運用上の大きな障害として、電波環境の問題が次第に浮き彫りになった。矢上キャンパスにおいて研究室が多く収容されている建物は、壁が分厚いコンクリート製なのに加えて、小さめの部屋が密集していて壁の枚数が多いため、そもそも無線LANの電波が届きにくい環境となっている。廊下に設置されている基地局から離れた窓側などでは特に顕著で、減衰により電波強度が弱くなってしまうため、通信速度の低下や急に接続が切れるといった障害が発生しやすい。対策としては部屋ごとに基地局を設置するのが有効であることは明らかだが、コストの問題から実現困難だった。もっとも、研究室内においては個別ネットワークの利用が優先される場合が多いため、サービス開始当初はあまり問題にならなかったが、タブレットやスマートフォンといった個人所有のモバイルデバイスの増加に伴い徐々に問題として認識されるようになった。

また、KEIOMOBILE時代の2003年頃からオフィスや家庭への無線LANの普及が進んだことで、研究室等でも個別ネットワーク内に独自の基地局を設置して利用するケースが徐々に増加していった。このような管理外の基地局の存在は電波干渉による接続品質の低下を招きかねないが、研究室のネットワークではファイル共有やプリントサーバ等の内部向けサービスが運用されている場合が多いため、インターネット接続のみを提供するKEIOMOBILEやkeiomobile2では代用できず、なかなか有効な対策を立てられなかった。そうして研究室が密集する建物内に多数の基地局が乱立するようになった結果、激しい電波干渉によりKEIOMOBILE等の共通サービスにも接続しにくくなってしまう状況が多くの場所で発生するようになった。

これらの電波環境問題は、2011年の機器リプレース時にはすでに深刻なレベルに達しており対策が必要なことは認識されていたが、残念ながら大きく改善することはできなかった。利用者からの相談や苦情も頻繁に寄せられるようになり、担当者の頭を悩ませる状態が長く続いた。

そして迎えた2017年、6年ぶりにコントローラを含む全機器のリプレースを実施することになったのに伴い、電波環境の問題を解決するべく満を持してさまざまな対策を打ち出した。最新のIEEE 802.11ac規格への対応による5GHz帯サービスの全面的な提供開始もその一つだったが、中でも切り札的な対策と位置付けたのが、1. 個室への基地局設置サービス、2. 研究室ネットワーク接続サービス、の2つの新規サービスだ。以下、それぞれについて簡単に紹介しておこう。

「個室への基地局設置サービス」は、文字通り研究室等の個室内にITCが管理する基地局を設置することで、電波強度問題の解決を図ろうというものだ。ただし、前述の通りすべての部屋に設置したのでは莫大なコストがかかるため、電波強度の特に弱い箇所を中心に必要に応じて設置することを想定し、実際には利用者からの要望ベースで徐々に展開することを考えている。幸い、ここ数年で個室のような狭い部屋内への設置に適した比較的安価な製品が各メーカからリリースされるようになっており、有線LANのダウンリンクポートをも備えているため、部屋内の情報コンセントの代わりに壁面等に取り付けることも可能だ。

一方、「研究室ネットワーク接続サービス」は、ITCの無線LANインフラを経由して研究室等の個別ネットワークに直接接続可能な環境を提供するもので、基地局の乱立による電波干渉問題の解消を目指したサービスである。利用者側から見ると、無線LAN認証を経由したVPN接続のようなイメージで所属研究室のネットワークに接続されることになるが、この認証システムの実現のために、管理権限の細かな制御に対応したアプライアンス製品を新たに導入した。研究室側にユーザ登録・削除といったアカウント管理作業を任せることで、ITC側の管理コスト増を最小限に抑えつつ、柔軟で使いやすい接続環境を提供可能とするのが目的だ。

本稿執筆時点では、いずれのサービスもまだ技術的な検証および運用方法の検討を行っている段階であるが、2018年度中の正式サービス開始を目指し鋭意準備を進めている。

以上、20年に及ぶ矢上キャンパスの無線LAN環境整備の歴史と今後の展望を駆け足で紹介してきた。近年のIoTデバイスの普及などを背景に、無線LANはすでにキャンパスにおける中心的なネットワークサービスになりつつある。また、本稿では詳しく触れなかったが、セキュリティの確保も無線LANの運用においては重要な課題となっている。理工学ITCでは、そうした変化に柔軟に対応しながら、より利便性が高く安定したサービスの提供を今後も続けていきたいと考えている。


以上のように、それぞれのキャンパスに特有のバックグラウンドがあり、現在のサービス提供に至っている。他のキャンパスも含め、無線LANサービスについて気付いた点などがあれば、是非近くのITCまでご連絡いただけるとありがたい。

最終更新日: 2018年9月25日

内容はここまでです。