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提言

授業の履修支援について

ITC 副所長:萩野 達也


この春学期に私が受け持ったソフトウェアアーキテクチャの授業の履修者が500名を超えてしまい驚いた。少し専門的な科目なので、学期前は70名ほどだと思って準備していた。SFCではGIGAプログラムの関係で、一部の科目は英語と日本語で年度毎に交互に開催している。ソフトウェアアーキテクチャも昨年は英語で開講したため、履修者は10名しかいなかった。今年は日本語での開講なので少しは増えると予測していたが、500名を超えるとは思いもしなかった。

履修者が増えた原因はいくつか考えられる。まず、隔年でしか日本語で開講していないことがそのひとつかと思われたが、同じ日本語で開講した一昨年は40名ほどだったので、これはそれほど関係していないと思われる。次に、開講の曜日時限だが、一昨年は月曜日の2時限目で、本年度は月曜日の3時限目だった。午後からの講義なので学生が出席しやすかったのかもしれない。他の授業との重なりについては、本年度は研究会以外の授業は同時間に27個あり、一昨年は24個だったので、本年度の方がむしろ多い。学年的には1年生が191名、2年生が118名、3年生が104名、4年生が113名と、1年生が少し多いが、それほどアンバランスとも思えない。

そこで、原因として最も疑われるのが、履修選抜である。SFCでは2014年にカリキュラムを改正し、多くの科目で履修選抜が行われるように変った。しかも、授業初回の2日前までに履修選抜エントリーを行い、選抜が行われ次の日に結果が発表される。選抜は、教員が課題を出して、それを見て選ぶ方法と、システムがランダムに選ぶ方法がある。問題は、履修選抜エントリーができる数に制限はなく、選抜されたからといって必ずしも履修しなくてもよく、選抜が曜日毎に順次行われていくところにあるのではないかと思う。この春学期は、授業が火曜日から始まったために、月曜日の選抜が一番最後に行われた。選抜に外れた学生は次の曜日の選抜にエントリーを行うので、後になるほどエントリー数は増えていく。それから、選抜は前もって設定しておく必要があり、選抜をしない授業では、履修希望者を全員受け入れなくてはいけない。ソフトウェアアーキテクチャは過去の履修者数からそれほど多くなるとは思っていなかったので、選抜をしていなかった。そのため、選抜をはずれた学生が殺到したのではないかと思われる。

たくさんの学生が授業を履修してくれるのは嬉しいことだが、授業スタイルはかなり違ったものになる。少数だと、資料を配って、そこに書き込みをさせたり、黒板に板書をして説明したりすることができるが、500名を超えるとひとつの教室に入りきらず、2つの教室を遠隔で結ぶことになったために、黒板は使うことが難しくなった。遠隔の教室には2つのプロジェクターがあるが、ひとつにはプレゼンテーション資料を表示し、もうひとつには教員を表示させるため、黒板を表示することができない。大教室の黒板は大きいため、だれかスタッフがついて適切に教員と黒板を追いかけないとうまく遠隔側には表示できない。

これまではLaTeXを使ってプレゼンテーション資料を作成し、それを印刷して配布し、授業中に板書する内容を書き込ませる形で授業を行っていたが、資料印刷も大量になるのでできず、黒板を使うこともできなくなったので、急遽簡単なWebで授業スライドを共有するシステムを開発することにした。前で表示されているスライドが同期されてWeb上に表示され、学生は操作しなくともスライドが次に進んでいくようにした。また、大人数の授業では生徒がアクティブに参加するのが難しいため、簡単なクイズを同じシステムから回答することで、みんなの回答が前の画面で共有できる仕掛けを加えてみた。双方向授業などで用いられているクリッカーに似たものである。SFCでは授業に殆どの学生がPCを持ち込んでいるため、特別なクリッカーや、スマホアプリを使わなくても、通常のWebアプリで十分であった。回答がリアルタイムで共有されるためか、みんな熱心に参加してくれた。時間制限は30秒に設定したところ、最初は他の人の回答を見てから自分の回答を決める学生もいたが、途中から、正解不正解のある質問については途中経過をランダムに入れ替えて他の人の回答が分からないようにし、なるべく自分で考えさせるよう工夫した。

ITCでは授業支援システムを開発運用していてアンケート機能もあるが、前もって準備しておく必要がある。もっと気軽に授業中に学生からフィードバックをスマートフォンからもらう機能など、アクティブラーニングをサポートする機能がもっと充実すると良いのではないかと思う。

この授業では、毎回10問程度のクイズを作ったが、選択式のクイズのみの仕掛けだったので、適切なクイズ自体を作るのもかなり手間だった。また、資料についても黒板で書くことができないことを想定し、すべてを書くことにしたので、従来まで使ってきたものを大幅に改定する必要があり、週末は授業準備に追われて大変だった。来年度は1つの教室に収まるように履修選抜を忘れずに設定する必要がある。

SFCでは必修科目がほとんどなく、学年制もないため、学生はどの授業でも自由に履修することができる。そのため、適切なナビゲーションシステムがないと迷子になってしまう。授業の概要やシラバスは前もってWeb上にあるが、興味のない科目については見ないので、あまり活用されていないのではないか。結局は時間割で、自分の空いている時間を、その時間に提供されている授業で埋めようとする。友達や先輩からの情報で楽勝科目を選んでしまい、将来自分の卒業プロジェクトで必要となる科目を取らなかったり、前提となる知識を持っていないのに、その科目を取ってしまったりなどのことが起こっている。

履修申告のシステムはWeb上にあるが、学習指導として取る科目をガイドしてくれはしない。卒業できるかどうかの判定ですら、最後の学期にならないと分からなかったりする。学生それぞれの能力や設定した目標から、履修すべき科目をガイドしてくれるようなシステムに進化しても良いのではないか。また、大学時代の成果が、単に卒業証明書と取得単位証明書になるのではなく、ポートフォリオとして、すべての活動をまとめた形で整理してくれるシステムもあっても良いのではないかと思う。履修のシステムはその一部になれば、学習全体の支援のシステムとなるのではないか。

今回の授業で履修者が多数になったのは曜日時限と履修選抜の関係であり、適切に曜日時限を設定したり、履修者選抜をかけたりすれば解決するかもしれないが、本来は、それぞれの授業を取るべき学生はある程度決まっているはずで、それが正しくガイドできていないところに問題があると思う。もっと良い履修支援のシステムがあるべきだと痛感している。

最終更新日: 2015年9月9日

内容はここまでです。