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提言

Wi-Fiで監視される世界

芝共立ITC所長:大江 知之


薬学部には、大学院生と学部の6年生を対象として、医薬品開発に関係する米国の様々な施設(規制官庁、研究機関、ベンチャー、グローバル企業、大学など)を2週間近くかけて巡るプログラムがある。毎年、私は引率教員として参加しているが、今年はボストンにも行ってきた。

ご存知の通り、ボストンはライフサイエンスのメッカでもあり、中でもマサチューセッツ工科大学(MIT)やハーバード大学で行われる研究はとても革新的で、場合によっては世界を変えるような技術開発が行われている。今回、現地の研究者との会話の中で知ることになったのだが、最近MITでITにも関係するとても面白い研究がされているので、ここで紹介したい。

それは、一言で言えばWi-Fiで人間の動きを全てモニターするという技術である。開発責任者はDina Katabi教授で、知る人ぞ知る今注目の女性若手研究者である。この技術でできることはものすごい。一般的なWi-Fi電波を使って、人の位置はもちろん、手足の動き、呼吸、心拍なども検出できるのだ。建物の中にいる人の動きも丸見えである。寝ているのかどうかやその人に異常が発生したかどうかなども手に取るように分かる。しかも、人間に何か機器を装着させるとか持たせるとかいうことは一切ないのである。X線での検査をイメージしてもらえると分かりやすい。いろいろ悪いことにも使われそうだが、うまく使えば人間の生活を一変させる代物である。ヘルスケアの分野では高齢者や認知症の患者さんの行動を把握するために用いられることが期待されているが、他の様々な使い方も当然考えられる。技術がもう少し進歩すれば、特定の個人まで識別できるらしい。プライバシーの問題は懸念されているが、監視カメラを至る所につけられるよりはましかも知れないという意見もある。

現在、世界中漏れなくWi-Fiが使えるようにアクセスポイントが次々と設置されている。慶應義塾も例に漏れず、構内に新たに設置あるいは機器を更新していることは周知の通りである。この設備投資は、現在は、もちろん快適なモバイル端末使用を目的としているわけであるが、上述の技術の今後の展開を想像すると、近い将来これらのインフラは違う目的に利用されるのではないかとつらつらと考えてしまう。

Dina Katabi教授の研究内容あるいは本人が解説している動画や記事がたくさん公開されているので、興味のある方は一度見てみると面白いと思う。

最終更新日: 2018年9月12日

内容はここまでです。